愛のない部屋
タキに抱き着いたまま本音を漏らす。
「ねぇ、タキ。どうして人は嘘を付くんだろうね?」
その問いには答えず、
「峰岸となんかあったか?」
見透かしたようにタキは言った。
全てお見通しなのかもしれないタキと目を合わせることが怖くて、広い胸から顔を上げることができなかった。
「嘘をつく理由には、いくつかあるんじゃないか?例え峰岸が嘘をついたとしても、なにか理由があるんだよ」
「理由?私に彼女のことで嘘をつく理由があるの?」
「彼女……?」
しまった、、
マリコさんのことは、聞かなかったことにするつもりだったのに。
「彼女って、誰のこと?」
「……会社の女子社員」
私のこの嘘は、
峰岸のためについたものだから
許されるよね?
「そうやって、沙奈も俺に嘘をつくの?」
「……マリコさんという、峰岸の好きな人」
小さな嘘をついてしまったことをすぐに謝ろうと顔を上げれば、
「タキ……?」
驚いた表情のまま、固まっているタキがいた。
しばらくして紡がれた言葉は、
「…なんでおまえがマリコのことを知っているんだ?」
タキにしては珍しい、責めるような口調だった。