愛のない部屋
タキが続ける。
「マリコのことはもう、忘れろよ」
もしかしたら引き返した方が良いのかもしれない。わざわざ外で話していると言うことは、私には聞かれたくない話。
「忘れたくても、忘れられねぇんだよ……」
静かに峰岸が呟いて、それに胸が締め付けられた。
痛い。
どこか?
「沙奈ちゃん……」
それまで黙っていた舞さんが、私の名を呼んだ。
直ぐ様、峰岸はこちらを見て戸惑いの表情を見せる。
ほら、私には聞かれたくなかったんだよ。
「車に戻るか」
タキは歩き出し、私との距離を縮めた。
「よく寝たか?」
いつも通りのタキに、
何も聞かなかったように振る舞えと、そう示唆されているような気がした。
「みんながいないのにも気付かずに爆睡してたみたい」
「そっか。そこの店でお菓子を買ったから。遠足気分で旅館に向かおう」
小学生のような笑顔を浮かべて、タキは私の肩に手を置いた。
「うん…」
タキと共に車に戻る。
後ろにいる峰岸の顔を見れなかった。
盗み聞きをしていたわけではないけれど
それでも聞かなければ良かった、
なんて罪悪感に侵される。