愛のない部屋
ドアノブに手をかける。
「ありがとう」
部屋に入り、真っ先に礼を述べれば
「あんま心配かけるな」
優しい言葉が返ってきた。
「峰岸も温泉、入ってきたんだね」
「おう」
首にタオルを掛けて濡れた髪を拭いている峰岸が、大人の男に見えた。
ただの同居人ではなく、"男"に見えたのは初めてだ。
「なに?」
視線に気付いてしまったようで不思議そうにこちらを見る。
「なんでもない」
「変な奴」
その言葉を受け入れるわけじゃないけれど、今日の私はどうかしている。
峰岸のお風呂上がりなんて、いつも見ているはずなのに。
あ、そっか。
旅行にお泊まりというシチュエーションで、ただ盛り上がってしまっただけだ。
普段と違う状況におかれて、峰岸のことも新鮮に見えるんだ。
「おまえ、なにを考えてる?」
窓際の椅子に座り、長い足を組む。悔しいけれど、絵になるんだよね。
「表情がコロコロ変わって、面白い」
「私がなにを考えていようが、アンタにいちいち報告する必要はないわ」
「はいはい」
毎度、このパターン。
アンタには関係ない、
そう言って、突き放すことしかできない。