愛のない部屋

温泉、中庭、広間にも舞さんの姿は見えなかった。

「実は昨日、喧嘩しちゃってさ」


目の前にある朝食に手を付けようとせず、タキはため息をついた。


「それなら冷静になりさえすれば、すぐに戻ってきますよ」


峰岸が言うと、正論に聞こえる。



「そうだと良いけど」



一口もつまんでいないのに、タキは席を立つ。



「部屋、戻ってるわ」


いつも元気なタキが落ち込んでいると、私にまで悲しい気持ちが伝染した。


「舞さん、何処にいるんだろう?」


「さぁな」


「心配じゃないの?」



タキの分の卵焼きにまで手を出した峰岸を睨む。細いのに意外とよく食べるんだよね。


「彼女は少し我慢しすぎたんだろう。無理して明るく振る舞っていたり、その他にも色々。もう我慢しないでたまには滝沢さんに心配させても良いんじゃねぇの?」


「そうか…」


「結婚ってそんなに甘いもんじゃねぇと思うよ。自分を偽っても、いずれボロが出る」


「……」



「あの2人の絆は強い、そうおまえが信じてやらなくてどうする?」



食わないなら貰うぞ、とウインナーを奪われた。

私の分まで!


「なにすんのよ!」


「朝から喚くな」


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