愛のない部屋

私の気持ちを分かったような顔をして、刺のあることを言う。



――昔の恋人?

なによ、ソレ。


なにも分かってない。



私が好きなのは、




目の前にいるアンタなのに。




峰岸 慶吾が、好き。





気付いてしまった恋心を隠すのは本当に大変だ。

この想いを伝えた方が楽なのも分かるし、こんなくだらない口論をしなくても済むのにそれでも言えなかった。



「否定しないんだな。他の男に想いを寄せてるのか」


「……」


酷いことを言われたのは私の方なのに、峰岸の方が苦しい表情を浮かべていた。



「俺はどうすれば良いんだろうな?どうしたら、昔の男を忘れられる?」



それには答えず、私は走り出した。


恋は本当に面倒くさい。

平穏な生活を送っていただけなのに突然、芽生えた感情のせいで呼吸することすら辛くなる。


大好きだと気付いたからこそ、また傷付く。


ただ峰岸が嫌いで仕方なくて、
お互いを空気のようにしか思っていなかったあの日に帰りたい……。

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