愛のない部屋
「今夜、近くで祭りがある!一緒に行こう!」
峰岸の叫ぶ声が聞こえたが振り返らなかった。
のんきに祭りを楽しむ気にはなれない。
「舞さん……」
知らない土地で探す宛もなくどうすれば良いのか、分からない。
箱根なんて一度も来たことがないもの。
見知らぬ土地に、ひとりぼっちの舞さんは今、どんな気持ちでいるのだろう。
せめて電話にくらい出て欲しいのに。
「ここは観光地から少し離れているからな…喫茶店とかも無いと思う」
突然、届いた聞き慣れた低い声。
「なにしてるの?」
「舞さんを捜してるに決まってるだろ」
「そうじゃなくて。温泉はどうしたのよ?」
「おまえをひとりで行動させる訳には行かないから、フロントに洗面用具を預けてきた」
「……」
こういうところが、嫌い。
一緒に来て、なんて頼んでないのに。
さっき喧嘩したばかりなのに。
嫌そうな顔をして追い掛けて来てくれるんだ。
面倒見が良くて、優しくて。
峰岸の良い面しか見えないことは彼に惚れてしまったせいなのかな。