愛のない部屋
なにも分からなかった。
ただ、
車が行き交うソコに、飛び出して。
男の子の手を引き、庇うように抱き締めた。
頭さえ守ってあげれば、なんとか――神様。
痛みが走ったのはほんの一瞬。
膝に痛みを感じた。
でも死ぬ程は痛くない。
恐怖のせいなのか音が聞こえなくなっていた。
目の前は真っ暗。
おまけに抱き締めてるはずの男の子の温もりさえ感じられない。
恐怖を通り越した、
"無"の世界。
これが死ぬ、ということなのか。
「なにやってんだ、バカ野郎!!!!」
えっ……、
「おまえに死なれちゃ、俺が困るんだよ……沙奈…」
再び音が聞こえた。
周囲のざわざわする声も聞こえた。
「もう大丈夫だから」
はっきりと優しい声が聞こえ、ゆっくりと瞼を開けた。