愛のない部屋
「みね……あっ、男の子は!?」
腕の中を見れば、泣きわめく男の子。
良かった……。
「大丈夫か!」
列を乱して不自然に止まっている車。
最前列の車、つまり私たちをひいていたかもしれない運転手さんが飛び出してきた。
「この兄ちゃんがいなかったら、アンタ死んでた。俺も殺人者だ……咄嗟にアンタらを突き飛ばした兄ちゃんに感謝するよ」
「ごめんなさい」
私らしくないかもしれないけれど、涙が溢れた。
視覚が揺らぐ。
「ホント大したことなくて、良かった……」
運転手はその場に、しゃがみこんだ。
ごめんなさい……。
それから近くの交番の警官に色々尋ねられ、男の子の母親も引き取りに来た。
「本当にすみませんでした」
真っ青な母親を見たら、なにも言えなかった。
きつくきつく息子を抱く姿を見つめる。
親子を見て感動したのはいつぶりだろう。
「お姉ちゃんは、僕のヒーローだよ」
母親から離れた男の子は腫れた瞼で、笑ってくれた。
「そしてお兄ちゃんは、ピンチのヒーローを助けるナイトだよっ」
「ありがとう」
答えられない私に変わって峰岸が男の子の頭を撫でた。