愛のない部屋
病院に行こうかと何度も聞かれたが、頑なに拒否した。
別に病気なんかじゃない。
ショックなだけ。
「死ぬかもしれない目にあって、混乱してるみたい」
「無理もないな」
背中をさすってくれる。
まるで子供をあやすような優しい動作に、思わず峰岸の服をぎゅっと握った。
「ごめんね?峰岸も危険なことをしたのに」
それなのに私だけが甘えて。
「俺は平気」
平然とした顔で、私のことを心配して。
また迷惑をかけてしまったのか。
「無事でなにより。あの少年の笑顔を守ったのはおまえだ」
「違うよ。私はなにもできなかった」
峰岸が私を助けてくれなかったら、もう2度とあの少年は……
神様は日頃の行いを見て、私にほんの少し意地悪をしているのかと思っていたのに。
峰岸と出逢わせてくれたり、男の子を救ってくれた。
「俺はおまえを助けただけで、少年は救ってない」
「救ったじゃない」
「少年が道路にいてもあんな咄嗟な行動はできない。おまえだから、危ない状況に陥っていたのが沙奈だから。素早く対応できたんだよ」
沙奈――ずっと、峰岸に名前を呼ばれたかった。