愛のない部屋
1週間前まで居候していた家が見えた。
「あ、ここで」
運転手に止まるように誘導して峰岸はさっさとお会計を済ませる。
「立てる?」
手を差し出されて素直に従う。
峰岸に引っ張って貰い、なんとかタクシーから降りた。
あ、――力が抜ける。
見慣れた家に着いたせいかそれ共、体力の限界なのかは不明。
冷静に考えるための思考回路は停止し、その場に崩れそうになる。
「おいっ、」
背中越しに体温を感じ、安堵する。
そのまま峰岸に抱きかかえられ……いや、両足が地についてない。
お互いそんなガラでもないのに、お姫様だっこをしたまま玄関をくぐった。
「なに飲みたい?」
私をソファーに横たわらせて問う。
「冷たい水……」
「了解」
唇もカサカサで、喉がはりつく違和感もする。
すぐに手渡されたミネラルウォーターを少し飲んだ。
「腹は減らない?」
「うん」
空腹の時に気分が悪くなるが、今は胃が逆流するほどの気持ち悪さを感じている。
「顔色が悪いな。気持ち悪いか?」
峰岸の言葉に頷いた。
もう意地を張る元気もなかった。