愛のない部屋

1週間前まで居候していた家が見えた。


「あ、ここで」


運転手に止まるように誘導して峰岸はさっさとお会計を済ませる。


「立てる?」



手を差し出されて素直に従う。

峰岸に引っ張って貰い、なんとかタクシーから降りた。



あ、――力が抜ける。



見慣れた家に着いたせいかそれ共、体力の限界なのかは不明。

冷静に考えるための思考回路は停止し、その場に崩れそうになる。


「おいっ、」



背中越しに体温を感じ、安堵する。


そのまま峰岸に抱きかかえられ……いや、両足が地についてない。

お互いそんなガラでもないのに、お姫様だっこをしたまま玄関をくぐった。



「なに飲みたい?」


私をソファーに横たわらせて問う。


「冷たい水……」


「了解」



唇もカサカサで、喉がはりつく違和感もする。

すぐに手渡されたミネラルウォーターを少し飲んだ。


「腹は減らない?」

「うん」


空腹の時に気分が悪くなるが、今は胃が逆流するほどの気持ち悪さを感じている。


「顔色が悪いな。気持ち悪いか?」



峰岸の言葉に頷いた。

もう意地を張る元気もなかった。


< 221 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop