愛のない部屋
タキの心地の良い沙奈と呼ぶ声も。
篠崎さんが優しく微笑みながら沙奈ちゃんと呼ぶ声も。
峰岸のそれには敵わない。
峰岸に名前を呼ばれると
胸の奥がキュン、とする。
この特別な反応は――恋なのだろう。
「おまえが死んだら、どうしようかと思った」
低い声に、弱さが見えた。
強がってばかりの私たちは、いつも脆い部分を隠してひとりで背負い込もうとしてしまうね。
「あっ、」
急に起き上がった私に峰岸は驚いたように、身を引いた。
「どうした?」
「……」
目が、頭が冴えた。
リビングのソファーに横になって、その傍には峰岸がいて。
幸せを感じていた。
でもこれは勘違い。
錯覚だ。
「私、帰るね」
マリコさんのこと……すっかり頭から離れていた。
本来なら家に上がらせてもらうべきじゃなかったのだと深く後悔と反省。
「もう少し休んで行けよ」
溜め息混じりの峰岸の言葉に首を横に振った。