愛のない部屋
「これ、借りていたお金」
タキに渡そうとしていた封筒をテーブルの上に置く。
「……いらねぇよ」
「そういうわけにはいかない!」
封筒を強引に握らせ、ふらつく足をなんとか奮い立たせた。
「ご迷惑をおかけしました」
「……」
「失礼します」
もう一度、きちんと話すべきだとは思うけれど。
心も身体も弱っている時に峰岸と話しても……また甘えてしまうだけだ。
居心地のいい場所に依存していると分かっている以上、早く此処から退散しよう。
幸い峰岸は追い掛けては来ず、リビングのドアを閉める。
ーーしかし、その隙間に峰岸の右足が入れられた。
足が挟まっている状態ではドアは閉められない。
「なに……?」
「送ってくよ。車で」
「平気だよ」
最初から突き放したのはそっちなのに、どうして優しくするのだろう。
マリコさんとの約束の夜、嫌がる私にキスを迫った峰岸にはなにか強い意志が見えたのに。
その瞳が今は揺れているように映った。
「でも危ないし」
引こうとしない峰岸に仕方なく言う。
「篠崎さんとこの後、約束があるの」