愛のない部屋

「確かに君に好意を持っているけれど。峰岸は俺の親友で。親友より君を優先させるつもりなんて、最初からなかったよ」


篠崎は一通りのない路地で車を止めた。

そしてやっとこちらを向き、私の頬に手を添えた。


「親友の惚れた女を奪うなんて悪役は俺に向いていないと思わない?君が思うより俺は嫌な奴じゃないよ?」


近付く顔。
ここでキスするなら、篠崎は親友を本気で裏切ったことになる。

彼ならたぶんそんな馬鹿なことはしないだろうから顔を背けることなく、真っすぐ篠崎を見た。


「動揺しないなんて面白くないな」


小さく笑い、姿勢を元に戻すと大きな伸びをした。


「峰岸を見てても、君を見てても、すごく痛いんだよね」


「痛い?」


「互いをこんなにも想いあってるのに、それでいて距離を置こうとするなんてさ。馬鹿みたいじゃない?時間の無駄」


「そんな…」


我慢して峰岸から離れようとしていることを、時間の無駄だと切り捨てられてしまった。


「まだ君は素直にならないと言うのなら、今ここで無理矢理キスでもしようか」


「え…」


今度は冗談に聞こえない声に戸惑った。

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