愛のない部屋
「さぁ乗って」
「あ、はい。わざわざすみません」
「俺は大丈夫。好きな子のためなら」
語尾にハートマークを付けたような台詞に、胸がチクリと痛んだ。私のことを大切にしてくれているのに、気持ちは峰岸に向いたまま。
「篠崎さん……、私はやっぱり峰岸のことが好きです」
助手席から、隣りに座る篠崎の表情を伺う。
「それに気付いているのに君は何故、峰岸に本心をさらけ出さないの?」
こちらを見ずに篠崎はハンドルを切った。
「峰岸を困らせたくないから……」
選ばれたのはマリコさん。
それは変わりようのない事実だから。
「君にも考えがあるのだろうけれど、俺から見たらモドカシイ2人だよ」
「えっ?」
「嫌な男を演じてみた」
篠崎さんはどこか楽しそうに笑った。
「俺はマリコから話を聞いていたから、君と峰岸の仲が壊れることを容易に想像できたんだ。だから前もって君に、俺という逃げ道を作ってあげた」
マリコさんと篠崎はいったいどんな関係なのだろうか。