愛のない部屋
「本当にちゃんと見た?俺たちがキスした直後のアイツの顔っていったら…間抜け面以外のなにものでもなかった」
「マヌケ…?」
いつもの無表情でなかった?
「ショックだったんだろうな。君がキスを拒まなかったことが、相当。そして俺も実は拒絶されるかと思ってたんだけど。俺に惚れた?」
「……篠崎さんは許可もなくキスしてくるような人だとは思っていませんから」
決して受け入れたわけじゃない。
「あはは」
お腹を抱えて笑う篠崎は本当に楽しそうだ。面白い話なんてしてないのに。
「そこまで俺を信頼してくれていることに喜ぶべき?ひょっとして俺と付き合っても良いかも、なんて思ってるでしょう」
「…少し、思いました」
視線を合わさず、窓の外を見る。
人通りのない道は妙に寂しく映った。
「俺は君にとってちょうど良い物件、ってわけか」
「そんなこと…」
そんな風に思われてしまったなら誤解だと、取り消す前に篠崎はさらりと言ってのけた。
「俺と付き合ったら楽だもんな。君に好意をもつ俺となら、いざこざもなく冷静に付き合えると思ったんだろう?お見通し。結局、おまえは楽な道を選ぼうとした」