愛のない部屋
図星だった。
篠崎と付き合えたら、たぶん楽で。
本気にならない恋だったら、悩む必要もなくて。
ぐいぐい引っ張ってくれそうな篠崎となら、未来という道が続いてそうだと感じた。
いつか峰岸のこともそんな風に思ったことがある。
たぶん初めて一緒に大型スーパーに買い物に行ったあの日――。
なんでも言いあえる私たちが付き合いだしても、気楽な関係のままいられると思ったのに。
いつから私たちは…、
「俺にそこまで優しい男を演じさせるつもり?」
「……」
「今から戻って、ちゃんと峰岸に気持ちを伝えたらどうだ?」
「少し、考えさせてください。ごめんなさい」
篠崎さんは私の考えなんてお見通しで、優しい役を演じているなんて言うけれど、
少なくとも私が前を向けるように悪者になって、アドバイスしてくれるその優しさは本物でしょう。
「それじゃぁ、なにか美味しいものでも食べていく?」
がらりと変わった話題にホッとしつつも、食欲はない。
「実は今日、事故に遭いそうになって。申し訳ないのですが、真っすぐ家に送ってくれませんか?」
「事故……ごめん」
なにも知らない篠崎は驚いたように、私のつま先から頭まで視線を彷徨わせた。
怪我がないかを確認しているようだ。