愛のない部屋
振り返らずにエントランスをくぐる。
「気に障ったのなら、ごめん」
マリコさんについては何もコメントしない。
そういうところが峰岸のズルさ。
「散らかってるけど、上がって」
マンションの階段を上がり、鍵を取り出す。
"はぁ…忍耐力が必要だ"
そう峰岸が呟いたようだったが聞こえないフリをした。
もう余計なことを言うのは止めよう。
伝えたいことだけをきちんと口に出すことから始めなければ。
「お邪魔します」
遠慮なく峰岸は私の部屋に上がった。
そこまで散らかしてなくて良かった、と内心ほっとする。
「これ……」
夜も遅いので珈琲ではなく麦茶をいれると、峰岸はテーブルの上に置きっぱなしになっていたライオンを手にとった。
「大事にしてくれてるんだ?」
「だって可愛いもん」
峰岸からの贈り物だから大切にしてるんだけど。
そんな恥ずかしい台詞、簡単に言えるもんじゃない。
「また祭り、行きたいな」
「そうだね」
「俺、マリコと会ったあの日、おまえに酷いこと言ったよな」
ライオンから話が飛躍。
マリコさんの名前に胸に鋭い痛みが走った。