愛のない部屋

峰岸の家を飛び出して私は何処へ向かったのだろう。篠崎が寄り添ってくれなかったら夜空の下で泣き崩れていたかもしれない。


「篠崎さんが傍に居てくれたから、安心して眠れたの。話も聞いてもらって……」


「……篠崎、良いところどりだな」



悔しそうに舌打ち。
肩から手を放し、そのまま私の髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。


「アイツとなにもなくて、良かった」


心底安心したような緩い表情。

さっきから峰岸はズルい。
自分はマリコさんのことを大切にしているのに、それでいて私と篠崎が恋愛関係になくて良かったと喜ぶなんて。


「峰岸とマリコさんの関係は?」


「……」


そこで黙るのか。


「私のこと好きって言ったよね?二股?」


二股を掛けられても許せるような器は持ち合わせていないから、はっきりさせたい。

ーーううん、違う。
峰岸が私を好きでいてくれるなら、2番目でもいいと叫び出しそうな気持ちに早く蓋をしなければ、人の道を踏み外してしまうから。


「マリコに恋愛感情はないよ」

「嘘だよ」


峰岸にはマリコさんが必要なんでしょ?

数時間前の言葉を鮮明に思い出すことができる。
胸に突き刺さって抜けないのだ。

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