愛のない部屋
私にも、マリコさんにも峰岸は必要なんだ。
だから、
「……だから、峰岸はマリコさんを大切にすべきだよ」
峰岸がマリコさんの元へ行くというのなら私も頑張るよ。アンタにこの溢れる想いを悟られないように、頑張って隠し通すから。
「おまえはそれで良いのか?」
「峰岸のこと、マリコさんをひとりにしてまで欲しいとは思わない」
偽善だ。
人間は自分の幸せと引き換えになら、他人を奈落の底に落としてもいいと心のどこかで醜い感情が渦巻いている。
「マリコから奪うくらいの価値が、俺には無いってことか」
「うん」
もし峰岸に価値をつけられたとしたら、それはもう私が一生かけても手に入らない金額になるだろうね。
「そうか……」
弱く吐かれた言葉。もうプライベートで会うのは最後かもしれないのに、目に焼き付いたのは峰岸の悲しい表情。
この雰囲気には相応しく無いのは承知で、笑って欲しいと願う。
「ひとつだけ聞きたい」
「なに?」
「何故さっき、電話で会いたいなんて言ったんだ」
つい出てしまった本音を峰岸に追及されても。
もう素直になるつもりはない。