愛のない部屋

「どうして篠崎の名前を出した?」


マリコさんが帰ってからも、私たちは顔を合わせることなく玄関に入る。


「マリコさんに疑われないためよ」


私たちがキスまでした仲だと知ったら、憤慨するだろう。今は丸く治めておきたい。


「マリコは絶対、おまえに協力するぞ」


「また篠崎さんに迷惑かけちゃうね」


「……俺は篠崎の隣りで笑うおまえを、見たくない」


「…………」



妬いてくれるのなら、私だけのモノになってくれたら良いのに。


本当はマリコさんのことなんて気にかけないで欲しい。そんな私のワガママを、峰岸は聞いてくれないでしょ?



アンタは私だけでなく、マリコさんにも優しい男だもんね。



「此処は愛のない部屋でしょ?そういう発言は控えて」


性格の悪い女でいなければ、辛い日々になる。



「そうだな」


「必要以上に私に関わらないで」


「……分かってる」



なんでそんな寂しそうな顔をするの?

苦しいのはアンタだけじゃないのに。

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