愛のない部屋
取引先の上司にさえ、お世辞なんて滅多に吐かなかったのに。
今はもう簡単に嘘がつける。
彼を守るためだったらどんなこともできる。
「……私たちの邪魔、しないで下さいね」
彼女は私に心を許してはくれないようで、冷たい目をしていた。
「邪魔しません。その代わりに私の恋の邪魔もしないでくださいね?」
「あなたの?」
「はい。私、篠崎さんが好きなので」
篠崎さん……、ごめんなさい。
「あなた、輝(ヒカル)が好きなの?」
「はい」
ヒカル……篠崎の名前を初めて知る。
「なんだ、そういうこと。協力するわ」
初めてマリコさんが笑った。
その安心しきった笑顔を、裏切ることなんてできないと今度は私が笑顔を消し去った。
複雑な心境。
「どうかしました?」
「なんでもないです。篠崎…いえ、輝さんのこと、なにも知らないので。マリコさん、色々教えて下さい」
「もちろんよ」
峰岸の顔を見れなかった。
マリコさんは恋に溺れる、かつての自分と同じに見えて。また余計な嘘を重ねてしまった。