愛のない部屋
ほんの少しの違和感
テーブルの上にサンドイッチを置く。
「よかったらどうぞ」
なるべくそっけなく聞こえるように言う。
「ありがとう」
簡単にお礼の言葉を口に出すことは、愛のない部屋ではルール違反なのに。
さっそくお弁当箱に詰めたサンドイッチを頬張る峰岸を見たらなにも言えなかった。
私たちはマリコさんに疑われないように暮らさなければならないけれど。身体中から峰岸のことが好きだと言うオーラが出ていないか、自分が一番心配。
要領の良い峰岸はマリコさんの前で失態を犯すことなんてないだろうから、私が足を引っ張らないようにしなければ…。
「峰岸」
「んっ?」
「マリコさんの助けにはなれそうなの?」
「親権のことは滝沢さんに頼んでみる」
「……」
タキは弁護士だと舞さんが言っていたけれど。未だに信じられない。
「…滝沢さんには以前も世話になってるんだ。俺とマリコのことで」
「マリコさんにアンタが訴えられたと聞いたわ」
「…誰から?」
「さぁ」
私に話す人物はタキ自身か舞さんくらいしかいないけれど、一応情報源を秘密にしておく。
それなのに峰岸が予想した人物は別の人だった。
「篠崎か」
「……」
篠崎もこの件を知っているのか。