愛のない部屋
「篠崎からなにを聞いたかは知らないが、正確にはマリコの旦那から俺が訴えられたんだ」
峰岸が勝手に勘違いしているだけなので、あえて篠崎のことは否定もせずにマリコさんの旦那さんがどんな人物なのか勝手に想像してみる。
「俺とマリコは、いわゆる不倫関係でさ」
え?不倫?
人の道を背いた過去をこんなにもあっさりと白状できるなんて、反省しているとは思えない。
マイナスイメージを思い浮かべていた旦那さんの印象が、ガラりと変わる。
不倫なら、訴えられても仕方がない。
「……黙るなよ。罵倒してくれた方が、俺も開き直れるんだけど」
開き直る?
「不倫なんて最低だよ」
もうこれ以上、なにを聞いても驚かないような気がした。
不倫。不倫不倫……連呼すると、とても卑猥な言葉に思えてくる。
「ホント、最低だよな。でも滝沢さんのおかげで裁判にもならずに、円満とはいかないが穏便に解決できたんだ」
タキは弁護士という立場を使って、不倫をした峰岸を救ったのかもしれない。
私の中での弁護士とは、正義の味方なのに。
タキが峰岸を助けたことは、本当に正しいことなのだろうか。