愛のない部屋
心拍数が上がる。
「見損なった?」
サンドイッチを手に持ったまま峰岸は私を見た。
「おまえの手作りを食う資格なんてないと思う?」
「……」
「それどころか道徳に背いた俺は…おまえを愛す資格がないかな」
その質問にも答えられなかった。
過去の記憶が蘇る。
アノ人も同じことをしていた。
婚約者がいる身分で、私を愛した。
愛で救われたのは確かだけれど、愛で傷つけられたこともまた事実。幸せの時間はほんの一瞬で、ただ傷跡が残っただけ。
それでも峰岸を愛そうと決めたのに。
峰岸自身もアノ人と同じなんて……
「ごめん、ちょっと混乱してる」
ああ、謝ってはいけないルールなのに。
「…いや、そうだよな……」
気まずい空気が流れる。
今までとはどこか違う、空気。
互いを嫌い、無視をしていたあの頃の冷たい雰囲気でもない。
今ここに流れている
空気の色は、
意味は、
いったいなんだろう。
「恋愛が綺麗事ばっかでないことは分かっているけれど。浮気だとか不倫だとか、どうしても許せないの」
自分がされたことだから、
その痛みがよく分かるから、
余計に許せない。