愛のない部屋
感情を抑えて言う。
「…アンタはしばらくマリコさんの親権のことで色々と忙しいでしょう?その間、私のことは構わないで」
「……」
「今のまとまらない頭じゃ、峰岸に酷いことを言ってしまいそうだから」
感情的になって良い結果なんて、なにも生まれない。答えを急いでも仕方ない。
「たぶん、ショックだったの」
「うん…」
力のない声。
「アンタが不倫をしていたという事実よりも、それくらいマリコさんを愛していたという事実に驚いた」
少しの良心を持ち合わせていれば、不倫がどれくらい罪なことなのか考えなくても分かるはず。
頭の良い峰岸なら、きっとそれを分かっていたであろう。
社会的にも不倫がどいうものか、峰岸はよく理解していたはずだ。
その良心をかき消してしまうくらいにマリコさんを愛していたなんてーー信じたくないんだよ。
「分かった。おまえの言う通りにするよ」
「うん」
額に手を置き、目をつむりながら峰岸は言った。
「マシな男じゃなくて、悪りぃ」
「私もマシな女じゃないから、どっちもどっちだよ」
冗談みたいな会話なのに、どちらも笑わなかった。
峰岸がマリコさんを想う気持ちは、
深い深い愛情だと、
分かった気になっていたけれど。
後日、タキから話を聞いて
本当はなにひとつ理解してあげられなかったのだと、
ひどく後悔することになる。