愛のない部屋
そう、タキは結婚する。
照れているのか相手の写真すら見せてくれないけれど、結婚式には呼んでくれると言っていた。
「なに、ニヤニヤしてるの」
目の前でコーラを飲むタキに指摘されて、表情が緩んでいたことに気付く。
「ちょっとね」
曖昧に促せば、タキは愉快そうに笑った。
淡いピンクのセーターが彼によく似合っていて、休日のせいか寝癖がついていた。
「おまえはホントに面白いな」
ストローで一気に炭酸ドリンクが吸い上げられる。その子供っぽい飲み方が微笑ましい。
「私を変えてくれたのはタキだよ?」
「なに?俺は沙奈を変人にしてしまったのか?」
「ひどっ!」
タキとのジョーク混じりの楽しい会話も、一緒に過ごせる時間も。
なによりも大切なものだと思っていたのに、
タキの次の一言で、崩された。
「もう俺がいなくても平気か?」
「……」
急に珍しく真剣な顔になったと思ったら、別れを示唆するような言葉が降ってきた。
「え?」
これもジョークの続きだとしたら、笑うところ?
「俺、結婚してアメリカで暮らすつもり」
「うそ…」
なにか悪い夢?
いや、これが現実。
タキと出会った瞬間からずっとずっと予想していた"別れ"が遂に来た。