愛のない部屋
まだ他の社員の足音は聞こえない。
「沙奈ちゃんは繊細だから、忠告しておくけど」
おちゃらけた口調の割に、真剣な表情。思わず身構えてしまう。
「マリコはきっと真実を知ったら、君を罵倒するだろうし……たくさんの酷い言葉を浴びせられるかもしれない」
そんな状況で、私は冷静にいられるのだろうか。
「なにを言われても、君が自信を失っちゃいけないよ」
「はい……」
「君たちは両思いでマリコの入り込む余地はない。それが全てなんだから」
「はい!」
今度は力強く返事をする。
マリコさんだって辛いのだから、私も耐えなければ彼女に申し訳ない。
「篠崎さんはマリコさんと、どういうお知り合いなんですか?」
「俺と?……マリコがうちの会社に押し掛けて来たことは知ってる?」
「噂話として聞いたことあります。詳しくは知りませんが」
さっき七瀬が言っていたことと、恐らく同じ話だろう。
「そう。旦那にバレて、峰岸とも距離を置くという契約が成立したのにも関わらず、マリコは会社に押し掛けてきた」
噂話は本当だったようだ。
きっと峰岸は苦しかったろう。