愛のない部屋
マリコさんの元でなく本当に仕事だったの?
「その話は別件だから、峰岸に直接聞いて。とにかく峰岸は手紙を捨てて、マリコには会わなかった。なんでだと思う?」
「マリコさんの旦那さんとの約束が合ったから?」
峰岸はそう簡単に約束を破るような、いい加減な男ではないだろうから。誰よりもその契約に従おうと必至だったんじゃないかな。
「違う、違う」
大袈裟に手をヒラヒラさせ、篠崎は私を指さした。
「君が居たからだよ。もうあの時点で、アイツは沙奈ちゃんに恋をしてた」
「……そうなんでしょうか」
「恋なんてさ、理由がなくても始まってしまうものなんだよ」
「あの時、たぶん私も峰岸のことを好きでした」
恋愛をしないと決めた、その決心を覆す勇気がなかっただけで本当は峰岸のことが気になっていたし、近くに居たいとも思っていた。
「のろけ話は聞く予定にないから。それじゃぁ俺は会議に行ってくるよ」
棚から分厚い書類を取り出し、篠崎は立ちあがった。
「不安になったらいつでも俺のところにおいで。峰岸がどんだけ君のことを好きなのか、一晩中教えてあげるから」
優しい響きがこもった言葉を残して、流れるような動作で篠崎は出て行った。
私の話に付き合って会議の下準備、なにもしていないように見えたけど…今日は重要なプレゼンの日だ。大丈夫なのかな…。