愛のない部屋

「あの手紙の内容を沙奈ちゃんは聞いたかな?」


篠崎の質問に首を横に振った。

あの頃の私たちは、互いの領域に足を踏み入れまいと必死だった。


手紙というプライバシーを覗いてしまえば2人の関係が壊れてしまうような気がして、とにかく怖かったんだよね。



「あれにはマリコの居場所が書かれていたんだ。そして会いたいという気持ちとともに待ち合わせ日時と場所を…ずっと待っているから、来てくれと。」



「……その翌日、篠崎さんは私を訪ねてきましたよね」



今思えば、随分と嫌なことを言われたと思う。

峰岸を諦めろと忠告しておいて、このままで良いの?なんて聞かれてさ。

最初から篠崎は私の味方なのか、それともマリコさんの味方なのか、よく分からなかった。



「本当に峰岸がマリコに会いに行ったのか、確認しに行ったんだよ。案の定、アイツは朝から出掛けていた」


「仕事だと言って出て行ったはずなのに、マリコさんに会いに行っているのだと報告されて、私泣きましたよ」



タキの胸の中で泣いた。マリコさんが原因というよりも、峰岸に嘘をつかれたことがなによりも辛かった。


「ごめんごめん。アイツ、マリコになんて会いに行ってなかったみたいだ」



「…そうなんですか?」



朝早くから出掛けて行ったその場所を、まだ教えてもらっていない。

心の準備ができるまで、待って欲しいと言われたけれど。もう一度聞いてみても良いのだろうか。


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