愛のない部屋
素敵な女性
「会わなくていい」
ダンボールに荷物を詰めている私の背後から冷たい声が掛かった。
「俺たちのことを知ってアイツが黙っているはずないだろうが。わざわざ火に油を注ぐようなことはしなくて良い」
強い口調には、多少なりとも私への呆れも含まれている。
定時に上がり、部屋で荷物の整理をしていた。
しばらくすると峰岸もやって来て、簡単な引越しの準備を手伝ってくれていたが今朝の篠崎との会話の内容を話した途端、声を荒げた。
私にはもう二度と、マリコさんと会って欲しくないであろう峰岸の反応は予測できていたけれど、それ以上に強く拒否された。
「篠崎には俺から言っておく」
ガムテープを貼る作業を中断し、私は峰岸の方を向いた。
「このままじゃ、なにも変わらないし終わらないと思うの」
今日はそう簡単に引き下がる予定はなかった。
「沙奈!マリコと話して、なにが変わるんだ?俺たちの関係をバラして、今以上にこじれるのが現実だ。全ての人に認めてもらいたいとか、そんなことは所詮ただの綺麗事だとおまえも分かるだろう」