愛のない部屋
これは冗談?
「先に戻っていようか」
篠崎は済ました顔で言う。
今日はエープリルフールだっけ?
ホントは心の底で理解していた。どんなにおちゃらけた物言いでも、篠崎は真実を語る人だ。
こんな大事な嘘をついて、私の困る姿を傍観して楽しむ人じゃない。
「マリコさんが…」
でも受け入れられない。
峰岸はいったいなにを考えているのだろう。
さっきまで私とマリコさんが会うこと、あんなにも反対していたのに。
こんな格好で恋敵に会うの?
「急ではあるけれど、これが峰岸なりの決着の仕方なんだよね。男ってのは身勝手な生き物なんだ」
「でももう10時を回っていて……」
ゆっくり話し合えるような時間ではないし、明日も仕事なのに。
「それでも行動しなくちゃいけない時があるんだよ。時間や場所に囚われていたらさ、恋なんて上手くいかないよ。一般常識が恋のルールとは限らない」
穏やかな口調の篠崎は、私に落ち着くように言う。
「もやもやしていることは、さっさと片付けてしまった方がストレスも減るよね」
篠崎の言うことは最もだが、心の準備がまだ出来ていないこともまた事実なのだ。