愛のない部屋

私は泣きたい心境で、受付へ向かう。

こんなことが起きるなんて、想定していなかった。例え予想できていたとしても、上手く対処することはできないだろうけれど。



「沙奈」



受付の前の椅子に腰かけていた男は、私の名前を呼んだ。

その声を、聞くのは何年ぶりだろう。

少し痩せて、また背が高くなったように見える。笑うと八重歯が見えることは、変わっていない。



「沙奈、ごめん」



何に対しての謝罪だろうか。

私のことを泣かせ、遠くへ行ってしまったことへの謝罪?それとも突然押し掛けてきてしまった今の状況を言っているのだろうか。


「どうして私の居場所が分かったの?」


感情を抑制しているせいか、とても冷たい声が出た。

スーツ姿の先生は黒縁眼鏡をかけていて知的な雰囲気も昔のまま。少し年を重ねただけで、私が好きだった先生と、なにも変わっていない。



「調べようと思えば、調べられるよ。沙奈、君はまだ俺を恨んでる?」


真っすぐな瞳が私を捕えた。
かつてもこの瞳から逃げられず、私は恋に落ちたのだ。

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