愛のない部屋
「恨んではいない。でも私にはもう、アナタは必要ないから」
だから今すぐ、消えてほしい。
私の前にもう二度と、現れないで。
淡々とそう告げた。
酷いことを言っている自覚はあるが、迷いはなかった。
少し困ったように顔をしかめた先生は、それでもすぐに微笑んだ。
「僕の話を聞いてくれないか」
「……聞きたくない」
「どうしても話したいことがあるんだ」
「嫌だ」
教師という立場にある彼の言葉は、説得力があって私の心を掴む。
だからこそ、聞くことか怖い。
彼の謝罪を聞いたら、私は彼を許す気になってしまうかもしれない。言葉を巧みに操る先生の台詞に、何度共感してきたか分からないから。
今私にできることは、耳を塞ぐことだけだ。
「沙奈の元から俺が去った理由、聞きたくない?言い訳になるかもしれないけれど、ちゃんと聞いてほしいんだ」
「婚約者と海外で結婚する、それだけの理由でしょ?」
「…違うよ。婚約者というのは嘘で。日本を離れなければいけない理由は別にあったんだ。本当だよ、沙奈」
理由――?
そう聞きたい衝動に駆られる。
心は理由を知りがる。
抱いたジレンマに私の気持ちは揺れ動いた。