愛のない部屋

定時に上がり、ひとりぼっちであのリビングに戻る気にはなれず、会社の近くで峰岸を待つことにした。


「沙奈」



待ち始めて5分も経たない内に、名前を呼ばれた。


しかしそれは愛しい人の声ではなかった。




「……そんな顔、しないで」



「何の用ですか?」



今、私はどんな表情をしているのかな。



「名刺渡しただけでは沙奈は連絡くれないと思って。会社の前で待ち伏せして、説得するつもりだったんだ」


「……」


ちゃんと連絡をするつもりだったのに。



「此処は寒いからさ、どっか喫茶店でも……」


「ごめんなさい」



まだ完全に峰岸は先生と会うことに納得してくれていない。


だから今日は駄目だ。



「お願いします」



先生は深々と頭を下げてきた。



「ちょっ…そんなことしないで下さい!また今度、話を聞きますから」


「今度っていつ?沙奈はいつなら都合が良いのかな。僕は君に合わせるよ」






「今からで問題ありません」







そう先生の言葉に、



答えたのは


――私ではなかった。


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