愛のない部屋
「先に帰ったよ」
「で、話は済んだのか?」
「……」
先生は納得してくれたのだろうか。
「ねぇ、峰岸」
「ああ?」
「もし、もしもの話だよ?峰岸がもう治らない病気にかかってしまったら、私を置いて遠くに行っちゃう?」
「病気?……おまえから離れることができるんなら、そうするかもな」
突然の質問にも、きちんと受け答えをしてくれた。
「病気を理由に、私から離れるってこと?」
「離れられたらの話だろうが。俺はおまえを手放せないと思う。そこまで人間出来てないからな」
良かった……その答えが聞けて良かった。
「どうせすぐ死ぬんだから、それまで傍に居てと頼むくらい、良いじゃねぇか。看取った後は、俺のことを忘れて他の男を好きになれば良い……が、俺は健康だ!」
ぎゅっ、と私の手を乱暴に握った。
「帰るぞ、泣き虫」
「変なこと聞いて、ごめん」
「許さない」
口の端をつり上げて笑った峰岸の優しい顔を見て、私の帰る場所はここなのだと、はっきりと感じた。