愛のない部屋
「沙奈はその口で、俺の名前だけ呼んでれば良いんだよ」
「……ズルい。峰岸、マリコさんのことは名前で呼んでるのに」
せっかく仲直りできたのに、また可愛くない発言しちゃった……。
怒ったかな……?
「しょうがないだろう。マリコはマリコだ。だがアイツの名前を呼ぶ回数の十倍は、おまえの名前を呼んでるけどな」
「……」
「おまえ、まだ数えられるくらいしか俺の名前を口にしてないだろう」
「だって……」
「まぁ無理にとは、言わないよ」
ほらね。
峰岸は私の嫌がることを、強制しないでしょ。
それだけ愛されてるんだ、って自惚れても良いかな?
「飯にするか」
キッチンに向かい冷蔵庫を開けた、後ろ姿に尋ねる。
「うん。慶吾は何が食べたい?」
自然に聞こえるように、言ったつもりだけど…!
驚いたらしく勢いよく振り返った峰岸は、壁に手をぶつけてしまった。
「…いたっ……もう一回、呼んで」
そう催促されると同時に、私は峰岸の胸へと飛び込んだ。