愛のない部屋
「離して」
そう呟けばすぐに離れた身体。
他人の体温が心地良いなんて私らしくない感想。他人の温もりを素直に求めることが出来たのなら、こんな皮肉れた性格に育たなかったであろう。
「元気出たか?」
「少し」
「良かった」
兄貴のような存在。
背の高い峰岸を見上げて、そう思った。
優しくて面倒見が良くて、頼れるお兄ちゃん。
そんな風に簡単に位置付けができてしまえば良いのに、心はそれを拒否した。
「二度と私に触らないで」
ここまでしてくれた峰岸を突き放した理由は、私の弱さ。
「アンタなんかの力を借りなくったって、私は上手くやれる」
「なんだよ、その言い方は」
「セクハラで訴えるわよ」
せっかく慰めてやったのに、胸を貸してやったのに、
そう言われても良いように言い返す言葉を準備していたのに。
「いきなり可笑しな行動を取って、悪かったよ」
場違いな謝罪をされた。
「おまえの言う通り、もう触れたりしないから。一緒に住もう」
バカ。
ホントどこまでもお人好し。