愛のない部屋
広い胸に顔を埋める。
振り払うことだって、嫌がることだってできたのに。
抵抗せずに私は峰岸に従った。
背中で交差された峰岸の腕の力。
規則正しい鼓動に、感じる体温。
人間とこんなにも接近したのはいつぶりかと考えながら、そのまま顔を埋める。
恋人でもましてや友達でもない私たちのこの状況は、いったいなんなのでしょうか。
峰岸が今なにを考えているのかさえよく分からないけれど。
「私みたいな面倒な奴、放っておけば良いのに」
「放っておかない」
「なんで?」
「俺たちは滝沢さんの言う通り、似てると思うんだ。だからおまえの強がりなんて、お見通し」
「峰岸は捨てられた子犬を、拾ってしまうタイプでしょう?」
「子犬?」
「行くところの無い私を拾おうとしてるから……アンタ、優しすぎ」
「俺はおまえのこと嫌いじゃないし。その強気なところは割りと好き。気に入った女には優しくするよ」
「…軽すぎ」
アンタは困っている人みんなにそうやって甘い言葉を吐くのでしょう?
得体の知れない女に容易く胸を貸して、居場所を作ろうとしてくれている。
優しさに溢れた男。
だからこそ、
その優しさの故に傷付くことも多いのだろう。