愛のない部屋

その他にもくだらない妄想を口走る上司。
峰岸よりも先に篠崎をセクハラで訴えるべきだ。


篠崎の言葉の流入を防ぐため、思考回路をシャットダウンした。

そして開いたエレベーターの扉に、上司よりも先に身を乗り出す。


切り替えよう仕事だ、仕事。


「聞いてないでしょ?」



エレベーターから降りてもまだ付いてくる篠崎。

ああ、そうか。
私のデスクからそう離れていない場所に、篠崎のスペースがあるんだ。


そんな当たり前のことを再確認すると、なんだか疲れが出た。

まだ一日が始まったばかりなのに、朝から余計な体力を消費してしまったようです。



「おい、宮瀬」


「はい?」


無視できずに振り向く。
先を歩いていた私をあっさり追い抜かした篠崎は笑顔だった。



「峰岸のこと、宜しくな」


「……」


ふざけて言っているようにも見えなくて返事に困る。


「もう昔の話だけど、アイツも色々とあってさ。沢山、傷付いたと思う」


「私には関係ありません」


「"関係"なら、作れば良いじゃん」


「はぁ?」



篠崎のペースに流されつつある。


「恋人が無理なら、友達でも良いからさ。アイツを支えてやってよ」

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