愛のない部屋

タキは峰岸に、
私を支えるように頼み、

篠崎は私に、
峰岸を支えてやれ、

そう言うのか。



「アイツは優しい男だ」


「そんなことは知っています」


「それじゃぁ、分かるでしょ?」



真っ直ぐな瞳が私を射ぬく。
どうして私の近くには目力が最強の人ばかりなのだろう。


「優しい男だから、人の何倍も傷を負う。それ故に、傷痕も深くて…立ち直るのにも時間が掛かるんだよ」


「まだ立ち直ってないんですか?」


「新しい恋を避けている時点で、完治はしてないだろうね」


篠崎は重い空気にならないように、まるで世間話をしているかのようにさらっと言う。



「俺としては、君に峰岸の主治医になって欲しいな」


「なんですか、それ」


「沙奈ちゃんなら、できると思うんだよね」



会社で唯一、私を名前で呼ぶ男はなんだか楽しんでいるように映った。




「それで、この手紙を渡して欲しい」




ああ、これが本題か。

回りくどいことをせずに最初から用件を伝えてくれたら良かったのに。



「誰からですか?」


「それは峰岸に聞いて?」



手紙を届けるだけなら、まぁいいか……そんな風に思って深く考えず引き受けた。


峰岸の過去に自ら足を踏み入れようとしていることに気付かずに……。


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