愛のない部屋
定時に退社して真っ直ぐ家に帰る。
週末だというのに、約束や寄る場所もない女は寂しい奴だと、世間は思うだろうか。
いや私のことなど誰も気にかけていないだろう。
窓から明かりが漏れていないことを確認して、鍵を取り出す。
峰岸は今夜も遅いのだろうか。
次に女性を騙す笑顔を絶やさない、篠崎を思い浮かべた。
峰岸はタキ以外にも、ちゃんと頼れる存在がいる。
やはり、私だけが、いつも孤独の上にいるようだ。
七瀬と名乗る彼女のように笑顔という仮面を張り付けさえすれば、私も良好な人間関係を築けるのだとしたら……
「なに突っ立ってるんだよ」
突然の声に、肩を震わせれば。
私から鍵を奪い、鍵穴に差し込む峰岸の姿が目に入った。
「今日は早いのね」
「ああ」
先に玄関に入り靴を脱いだ峰岸は投函された新聞を拾い上げた。
「ご飯どうする予定だった?」
「カップラーメンの買い置きがあったはず」
「…なにか、作ろうか?と言っても、冷蔵庫に食材なさそうだけど」
私もカップラーメンにしようとしてた、とは言いにくかった。