愛のない部屋
彼女が距離を詰めると香水のきつい香りがした。
「峰岸さんに、告白しようと思います」
どうやら彼女の用件は私には関係のないことのようだ。
「どうぞご勝手に」
ドラマによくある宣戦布告というやつなのかもしれない。
気の強い負けず嫌いな性格だから、普通なら受けて立つだろう。でも取り合うものが峰岸なのだから、参戦するまでも無い。
潔く最初から負けを認めましょう。
「あなたみたいな可愛い女の子だったら、峰岸を落とすのも朝飯前ですよね」
「本当に、そう思っていますか?」
「はい」
珍しく私は笑みを浮かべてやった。
どうだ、私だって作り笑いくらいはできるんだぞ!
「私、秘書課の七瀬と言います。あなたには絶対に負けませんから!」
――ナナセ、
私が頭の中にその名前をインプットしている間に、彼女は立ち去った。
よく分からない人だ。
関わらないでいられる方法はないのだろうか。
何度同じことを繰り返し質問したら七瀬さんは、私が峰岸のことをどうも思っていないのだと理解してくれるのか……。