愛のない部屋
「買い物行くか?」
「今から?」
「土日の食糧、買い込んでおこうかと思って。車を出すよ」
「うん」
脱いだばかりの靴を履き直して、車のキーを取り出した峰岸に続いて表に出た。
一人暮らしにも関わらず車を所有していて、尚且つ一軒家なんて。
今度、峰岸の給料明細書を盗み見てやろう。
「どうぞ」
助手席のドアを開けてくれた。
だが首を振る。
「また噂とか面倒だから。後ろに乗るよ」
「そんなこと、気にするな」
腕を取り、強引に助手席に座らされたけれど、
嫌な気持ちにはならなかった。
「今日、アンタに告白すると言ってた女の子いたけど?」
「ああ、七瀬?相手にしてないよ」
助手席のドアを閉め、運転席に回る峰岸。
誰かにエスコートされるなんて久しぶりだ。
少し、強引だけれど。
悪い気はしない、なんてね。
「七瀬って子、アンタのこと本気みたいだよ」
動き出した車で、また話を続ける。
「面倒だな」
「私も迷惑してる」
だから早く、付き合ってよ。
そう言ってしまいそうで、ぐっと堪えた。