愛のない部屋
「迷惑?なんかされたか?」
ちらりとこちらを見た峰岸はハンドルを切る。
「嫌味言われた。それくらい我慢しろっていう話だけどね」
「悪いな」
「アンタも迷惑してるんでしょ?謝る必要ないよ」
私も峰岸も被害者。
でも七瀬は、
峰岸に迷惑を掛けているだとか、面倒だと思われているだとか一切、考えてないのだろうな。
恋は盲目だと言うしね。
「それより、なに食べたい?」
忙しい朝は手の込んだ物は作れないし、簡単に食べられるものが多くなる。
せっかくの夕食なら、峰岸が好きなものを作ろう。
「なんでもリクエストして、良いわけ?」
赤信号になり、峰岸は意地悪な笑みを浮かべた。
「一応言ってみて?もちろん却下もするけど」
「すんのかよー」
「あたりまえでしょ。苦手な物を作って、失敗作を食べることになるよりはマシでしょ?」
「そりゃそうだわ」
峰岸には何でも言える。
こんな恋愛、楽だろうなーーなんて思ってしまうことは峰岸に対して失礼だけれど。
初めて付き合った彼には、何一つ言えなかった。
ありのままの私を見てもらったことは、一度もない。