愛のない部屋
自分の気持ちを抑え込むことで恋人関係は成立していた。
ワガママなんて言ってしまえば、飽きられてしまうと分かっていたからひたすら良い子を演じた。
私にとっては初めての恋愛をなんとしても守りたかった。
あの頃の私はただ純粋に恋をしていたのだろう。
「それじゃぁ、得意料理を披露して」
隣りから峰岸の声がして、昔のことを頭から振り払う。
もう終わったことだと、分かってる。
「私に任せると、手抜き料理になるよ?」
そんな手の込んだ得意料理なんてないし。
「おまえが作ってくれるもんなら、なんでも良いよ?」
甘い台詞。
「アンタは私の彼氏か、っつーの!」
「彼氏になっても良いよ?」
「本気で言ってんの?」
自分の耳を疑い、再度確認する。
冗談だ、
そんな言葉が返って来ると思ったのに。
おまえみたいな女、彼女にするわけねぇだろ、
そう言って馬鹿にされると思ったのに。
「着いたよ」
タイミング良く、大型スーパーの駐車場に着き、
峰岸は慣れた動作で車を止めてさっさと降りてしまった。
ひとり車内に残された私は溜息をついた。
なんだか後味が悪い。