愛のない部屋
気を取り直して食器洗に戻ろうとシンクに立つ。
「……峰岸?」
背中に気配を感じて首だけ回転させると、耳に峰岸の吐息が触れた。
「俺が手紙を読まずに捨てた、って篠崎に伝えておいて」
「う、うん」
抱き締められているわけでもないし、
ただ真後ろに峰岸が立っているだけなのに。
緊張のせいか鼓動が速い。
「皿洗い、頼んでも良いかな?」
「いいよ」
普段なら手伝わない峰岸に文句を言うところなのに、素直に受け入れた。
「ていうかさ、」
「ん?」
まだなんかあるのか。
早く離れて欲しい。
「この態勢、抱き締めたくなるな……」
「ばかっ」
蛇口を捻り勢いよく、水を出す。
「ひとりじゃない、って良いな」
峰岸は笑った。
「峰岸?」
やっぱりオカシイ。
――ねぇ、
マリコさんって、誰?
そう尋ねたら、峰岸はなんて答えるんだろうね。
そこまで踏み込む勇気はない。
というか、面倒なことに首を突っ込むほど暇人じゃないし。