愛のない部屋
「アンタらしくないね」
「ん?」
「軽口を叩いて、涼しい顔して笑ってる方がアンタらしいよ」
食器を洗いながら、峰岸に告げる。
「俺、らしくないよな」
「うん」
それ以上、何も言ってあげられなかった。
手紙の内容も、マリコさんのことも、
なにも知らないから。
――じゃ、頼んだわ。
そう言ってリビングを後にした峰岸の右手に、ぐしゃりと握られた手紙が見えた。
先程の抱き締められると錯覚するほどの至近距離は、なんであったのだろう。
上手く説明はできないが、少し峰岸の気持ちが分かる。傷ついた私たちは人の温もりを、心のどこかで求めているのだろう。
そしてたぶん、アイツは動揺してた。
普段から冷静で、
憎まれ口を叩く峰岸を
動揺させたマリコさんという女性は、
彼にとって特別な存在なのだろう。
それが良い意味でなのか、悪い意味でなのかは分からないけれど。
唯一分かっていることは、
私なんかが力になれることはない。
だからせめて自然に振る舞い、篠崎に伝えよう。
手紙は読まずに捨ててました。
なんともない顔でそう告げることが、私の役目。