愛のない部屋

とりあえず上がってもらい、スリッパを出す。


「いや~突然、申し訳ないね」


「いえ」


「あ、お構い無く」



続いて珈琲を煎れた私に篠崎は笑顔を振り撒く。



「砂糖、多めでお願いします。甘党なんだよね」



お構い無く、どころかしっかり注文までつけてきました。

休日で、しかも此処は峰岸の家だから
プライベートを理由に上司に気を遣わなくても良いかな。




「峰岸なら昼まで、帰りませんけど」


「いや君に用があるんだ」


「…手短にお願いします」



私に用とはあまり良い内容とは思えない。
優雅な動作で珈琲を口にする男に気付かれないよう、そっと溜息をついた。



「手紙は渡してくれたかな?」



いきなり手紙の話題が、きました。



「渡しました。でも見ずに捨ててましたよ」



平然と告げる。



「ホントに見てなかったぁ?」



篠崎にこの嘘は見破られるだろうか。


「見てません、ね」



力を入れて、否定。


「マリコ、のこともさ。なにも話してくれなかった?」


まるで峰岸が手紙を開封したことを見透かしたような篠崎の言葉に、訳が分からないという反応を返す。



「マリコ?どちら様でしょう?」


ああ、上手く誤魔化せるかな。


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