愛のない部屋
峰岸に好意をもつ七瀬のように笑顔の仮面は被れない。
それでも真実から逃れるための"嘘"の仮面ならーー
もう感情のままに動いていたあの時の私ではないから、偽ることなんてカンタンだ。
「マリコってのはさ、峰岸の女」
篠崎のその言葉にも無反応で居られたことは、なんとなく予想が付いていたせいだろう。
「それで私に何の用なんですか?話が脱線してません?峰岸の女性関係に興味ないんですが」
取り合わないこちらの態度が気に入らないのか、篠崎は僅かに眉を潜めた。
「それじゃぁ本題に移った方が良いかな?」
「もちろんです」
また女性を魅力する笑顔を浮かべた篠崎を私は無視する。
「峰岸にはマリコさんがいて。君の出番はないから、諦めてくれる?」
ああ、ドラマなんかでよくあるシーン。
―――諦めて、
そう言われて素直な主人公は受け入れてしまうんだよね。
相手のために身を引く決意をするんだ。
「諦めますよ」
何ともないような顔で、宣言する。
「アイツのことはなんとも思ってないので、最初から諦めるもなにも無いんですけどね」
やっぱりマリコさんは、峰岸の彼女だったか。