世界で一番似ている赤色


わたしはやっぱりダメな子だ。


どうして今、優にぃに会いたくなっているんだろう。


もしかしたらこの前は一時帰国していただけかもしれないのに。



だけど、一目でもいいから、会いたい――



『綾です』



送信をタップした。文字が吹き出しに入ってすぐ、既読がついた。



『ごめんなさい』



そう送ると、スマホが震えた。


通話ボタンに触れ、耳に押し当てた。



『綾?』



優にぃの声がする。夢みたいだ。



「…………」


『綾? 聞こえる?』


「優にぃ、今どこ?」



必死に声をふりしぼった。



しばらく沈黙が走る。


彼はなんて答えるのだろう。


日本じゃないとこだったらあきらめよう。そう思ったが。



『学校終わって、駅ついたとこ』


「どういうこと?」


『家に帰るとこ』


「え……」



優にぃの声の隙間から、かすかに駅のアナウンスらしき音がした。


電車が通り抜ける音も聞こえる。



家って、前に遊びに行ったあの場所ってこと?


海外にいるんじゃなかったの? 学校って通信じゃなかったの?



いろいろ問い詰めたくなったけれど。



『……泣いてる?』



鼻水をすする音や、震えている声からバレていたらしい。


彼の小さな声が、わたしを思考を止めた。



「……うん」



隠せるはずがなかった。素直にうなずいた。



だって、そうすれば、きっと彼は……。



『会おうか』



そう言ってくれると思ったから。



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